山の日でありお盆シーズンのど真ん中、8月11日に高尾山のふもとにあるミュージアム、高尾599ミュージアムで門田さんのフリーライブが開かれるということで、去年に続き今年も遊びに行った。

当日は朝から線状降水帯が関東を含む広い範囲でかかり、本当に今日開催されるんだろうかと不安になるほど雨が降っていたものの、昼に近づくころにはすっかり止んでおり、じわじわと夏の様相を取り戻していた。普段使う駅から普段とは違う方向へどんどん電車が進んでいくのは、月並みながら日常から離れていく感覚が気持ちいい。高尾山口駅は、車窓からだと山間に入っていくというよりも住宅地から急に緑の割合が増えていくようで少し不思議で、ここが東京都内であることが思い出される。駅はほとんどが登山服を着た観光客で、それがもっとも都市部から離れたことを思い出させていた。

改札から出ると、丸一年ぶりのはずが去年の風景や道順が思い出され、まるで何度も通った土地のように思えて、周りに比べてあきらかに軽装であることもあいまってなんだか地元に明るい人みたいな気持ちになりかけるが、聞き馴染みのない鳥や鳴き声にそんなことないだろうと現実へ戻される。幸い日差しは戻り切らず、ほどよい気温のなか目的地へ歩くことができた。

会場となる高尾599ミュージアムは高尾山の魅力を伝えることと、高尾という場所に開かれたスペースを提供することが(多分)目的のミュージアムで、入館は無料ながら膨大な数の高尾に住むいきものたちの標本も見られるし、かつ地元のひとや登山客も気軽に立ち入れる明るい空間で気持ちがいい。山の日を含む8月は「TAKAO599祭」と題され、今回の来訪の目的であるスペシャルフリーライブ以外にも、自然の面白さを伝えるトークライブや、体験ブースなどが開かれていた。

イベントは、特に生体で世界一大きなカブトムシとクワガタムシが見られる特別展がとても刺激的で、なんなら子供の頃よりも興味を持ってじっくり見ていたかもしれない。この形で生物として生きているのが不思議でならない。なぜこんなにでかいのか。なぜこんなに美しい色をしているのか。その理由に思いを馳せながらも、単純にマテリアルとしての誠実な存在に圧倒されて見惚れてしまった。生体だけではなく、標本の量も常設とあわせて大変なもので、夏休みの子供達にまじって「山の日」を堪能した気持ちになることができた。展示からは友人と合流することができ、ミュージアム併設のカフェでコーヒーフロート(おいしい)を飲みながらすこし休憩。

時刻は15時前、南中を越え気温は上がってきていたが、そろそろライブが始まるということで広場へ。タケモト リオさん、モリ タケルさんと演奏が進み、少し雨雲が通り過ぎる時間はありつつも、テントのおかげで身を濡らすこともなく、暑さを楽しめる程度の気温で音楽を聞くことができた。ミュージアムの方々に頭が上がらない。

そうこうしているうちに1時間が過ぎ、ついに門田さんの出番となった。長袖長ズボンで現れた彼は、しかしいつものように涼しげな顔でアコースティックギターを抱え、サウンドチェックを始める。そのときまた降り出した雨に合わせてか、ラフに「雨と仲良く」を1コーラスのみ演奏。本当にいい曲だ…。スタッフに確認後、「門田匡陽です、よろしく。」とごく簡単な挨拶をして始めたのは「City Pop」。演奏回数、曲のクオリティともに門田匡陽ソロを代表するこの曲だが、去年の599祭でも1曲目に演奏されたことを思い出し、同じ場所で聞けたことが嬉しい(歌詞と間奏のEmはこの陽気にはちょっと重すぎるけどもね)。続けてPoet-type.M「調律するかの様に」のイントロが丁寧なピッキングで鳴らされる。同時に降り出した雨がテントをパラパラと叩く音に、ひぐらしの鳴き声、そして広場にある水路で遊ぶ子供達の声が重なり、あまりの風景の繊細さに遠くを見てしまった。良すぎる。去年に続き出演したことに感謝しつつ、来年も出演させてほしいと話したあと、3曲目はBURGER NUDS「Candle for minority」が演奏された。これも彼の優しさが詰まった曲で、この瞬間にとてもマッチしていた。

ゆるーくミュージアムスタッフと話した内容と、そこから思い出した少年時代の過去の経験を語ったあと、次に演奏する「Clear」についての話に移る。もともとBURGER NUDSのために作った曲で、バンドで練習していたが、この弾き語りのために1週間練習したこと。Clearという言葉には、ゲームのクリア、状況の明確化などいろいろな意味があるからつけたこと、伝えたいことがあっても誰かに伝えたり歌にすることはせず、自分の中にしまい込む。しかししまい込むことができず漏れ出たものが曲になる。そういう曲だ、と。翌日にもXに「クリアする時も本心なんて見せたく無いよ。誰にも。」と投稿するように、僕も彼が考えていることそのままを受け取ることができたと感じたことは一度もない。だけど、だからこそ、ひそかに触れ合う共通点があったときに、この人の感性はだれも自分の心を揺り動かす作品を作り出すんだなと実感するんだよな、なんてことを考えながら、Clearの「数えきれない 夢を見たね ここで終わり」という詩をかみしめた。

Clearが終わると、繋げるようにPoet-type.M「誇りの響き 光の中へ」が演奏される。静かなアルペジオが特徴的な曲が終盤へ差し掛かると、虫の声に鳥の鳴き声も重なり始め、いつのまにか雨は止み、歌声は夏空に消えていく。映画のエンドロールが流れたかと錯覚するほどの完璧な流れだ……。門田さんの演奏時間は全部で35分ほどだっただろうか?あっという間だった。

ちょうどミュージアムの閉館時間にもなり、観客もスタッフたちも余韻を感じるまもなく撤収。ここはもうすこしゆっくりしたいところだったので残念だったかも。ただそんな些細なことよりも、移動時間やミュージアムの展示も含めて、また来ることができてよかったと強く思えたイベントだった。帰り道、友人と店の軒先で冷たい飲み物をとることができたのも、学生時代の夏を思い出していい時間だった。また来年も来たい。


セットリスト:

  1. City Pop
  2. 調律するかの様に (Over The Rainbow)
  3. Candle for minority
  4. Clear (新曲)
  5. 誇りの響き 光の中へ (White White White)

門田さんのチャンネルにこの日の演奏から「Clear」がアップされている。